「福祉の市場化がもたらす功罪」は多数の研究があり、障害者福祉より先行していた高齢者福祉の市場化が参考になります。
過去の研究から明らかになった主な課題点は、以下の通りです。
①については、市場化された福祉では、事業者が限られた人員・時間で事業を運営し、収入と支出のバランスを取る必要があります。そのため、支援に時間や専門性をあまり必要としない軽度障害者のほうが、事業者にとって対応しやすい場合があります。
一方、重度障害者や行動障害のある人など、支援に多くの時間・人員・専門知識を必要とする利用者は、同じ報酬であれば事業者側の負担が大きくなります。その結果、明示的に「受け入れない」としなくても、受け入れ条件を厳しくしたり、消極的になったりする可能性があります。
つまり、福祉サービスが「必要度の高い人ほど優先される」という原則ではなく、「事業として対応しやすい人が選ばれやすい」構造になることが問題です。
②については、福祉サービスでは、人そのものがサービスの中心です。そのため、人件費を削減したり、職員を非正規化したり、研修・教育にかける費用を減らしたりすると、サービスの質に直接影響しやすくなります。
特に福祉の仕事は、利用者一人ひとりの障害特性や生活状況を理解し、継続的に関わることが重要です。しかし、低賃金や不安定な雇用によって職員の離職が増えると、経験を積んだ職員が定着しにくくなり、担当者が頻繁に変わることになります。
その結果、利用者との信頼関係や支援の継続性が損なわれたり、経験の少ない職員への負担が増えたりします。つまり、経営上のコスト削減が、最終的に利用者が受ける支援の安定性や質に影響するという問題です。
③については、従来の福祉では、国や自治体が福祉を提供・保障する主体として大きな責任を負っていました。ところが市場化が進むと、利用者がサービスを「選択し、契約し、利用する消費者」として位置づけられる側面が強くなります。
これは選択肢が増えるというメリットがある一方で、「自分に必要なサービスを探し、比較し、契約し、問題があれば事業者と交渉する」という責任が利用者側に移りやすいという問題があります。
しかし、障害の程度が重い人、高齢者、低所得者、家族による支援を得られない人などは、情報収集や事業者との交渉そのものが難しい場合があります。そのため、市場における「選択できる自由」が、実際には情報や交渉力を持つ人ほど有利になる仕組みになり得ます。
福祉の市場化には「選択肢の拡大」や「事業者間の競争によるサービス改善」という側面がある一方、福祉を市場の原理だけに委ねると、①利用者の選別、②職員・支援の質の不安定化、③公的責任の後退と自己責任化という問題が生じる可能性があるということを忘れてはなりません。


